【五味康祐氏のオーディオシステムで聴くレコードコンサート】で聴いたLP(その2)

【五味康祐氏のオーディオシステムで聴くレコードコンサート】で聴いたLP(その2)

11月25日に行われた【五味康祐氏のオーディオシステムで聴くレコードコンサート】で聴いたLPの紹介、今日はその二回目。

フルトヴェングラーの序曲「コリオラン」(第二次大戦中の録音から。1942年)

 

ついに、ベルリンフィルレコーディングスから、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(WFLPがリリースされた。

このレコードの解説書の冒頭には、

1939年から1945年の間、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーとベルリンフィルハーモニー管弦楽団の数多くの演奏会は、録音されラジオで放送されました。本録音集は、この期間の現存するラジオ録音のすべてを、望みうる最高の音源を用いて収録しています。」

とある。 

まずは、この貴重な音源の話から。

戦時中から、ドイツ帝国はWFがベルリンフィルを指揮したコンサートのライヴや無観客の演奏を数多く録音し放送していた。(もちろん、WF以外の演奏家も)

特にWFが50歳代を迎えたこの頃の演奏は、彼が気力体力のピークの頃の演奏とあって、以前から彼のキャリアの中でも最高の演奏と現地で聴いた人々から多くの賛辞を得ていたが、なかなかその神髄に触れることができなかった。というのは、それらの放送用のオリジナルテープのほとんどは、1947年頃にソビエトが戦利品としてモスクワに運ばれてしまったからだ。

1956年以降、これらの録音の一部はソビエトの国営レコードレーベルのメロディアからLPレコードとして制作されたが、「鉄のカーテン」時代であったため、まだまだ西側の音楽ファンには知られることはなかった。ところが、1960年代に入ってから、たまたまモスクワを訪問したイギリスのレコード商がこれらを発見し、レコードを持ち帰り、それらをもとに、西側のファンのためにLP化した。その直後から貴重な録音集は全世界に広まることとなる。

また、この原盤となったロシアのレコードの初版は、マニアの間では宝石のように珍重され、あるものは、いまでも天文学的な価格で取引されている。

さて、それから二十年経過した1987年、事態は急変する。

モスクワ放送局からこれらのロシアLPのマスターの一部がコピーされ、SFB(自由ベルリン放送)に送られてきたのだ。これらは、DGGからCD化され、多くのファンは歓喜の涙を流したが、メロディアのマスタリングであったため、(人工的な残響がつけられているなど)音響的な問題が多かったことも事実である。

それから3年たった1990年、ペレストロイカ進んだ状況を利用して、SFBは帝国放送送局のオリジナルテープの返還に成功した。(といっても、すべてではないが・・・)これらが、やっと日の目を見ることになったのである。

まずは、一足先に数年前にSACDとして発売された。22枚セットであったが、私は飽きることなくすべてを一気に聴いた。いままで、あまり良い音で聴けなかったWFの演奏が一皮むけて細部がよく聴きとることができたのがとてもうれしかったからだ。

そして、とうとう昨年末、LPレコードとしてリリースされた。残念ながら、レコード化されたのはSACDに収録された演奏の一部ではあるが、それでもとてもうれしく感じた。SACDも良かったが、LPになるとさらに音に厚みを感じることができ、あっという間に聴き通してしまった。

これらを聴いて、ちょっと気づいたことがある。これらの演奏が収録された環境(会場)の違いである。

解説書をみると、収録場所がベルリンフィルの本拠地である「旧」フィルハーモニー(いまの「カラヤンサーカス」ではない)を始め、放送局のスタジオやオペラハウスなどと多岐にわたっている。これらの違いが音を通してもはっきりとわかるのもうれしい。

今回聴いたのは、この貴重なLPからベートーヴェンの序曲「コリオラン」

当時の混沌とした空気を反映してか、非常にデモーニッシュな演奏であるが、聴く人の心を鷲掴みにするような不思議な演奏と評価をいただいた。